二次元戦士の独り言

自衛隊に4年間(2任期)勤務していた元自衛官のブログ。

89式小銃について

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89式小銃のあれこれ

 陸上自衛隊はじめ、海自自衛隊一部の部隊や海上保安庁でも使用される現代日本の純国産主力自動小銃89式小銃だ。本小銃は64式小銃の後継として1980年に開発された。

 

 開発元は豊和工業。口径5.56mm、全長916mm、重量3.5kg、銃身長420mm。ピストン部の開発には米国の「AR18」のショートストロークピストン式が参考にされたが、より作動が確実なロングストロークピストン式(ガス圧式)が採用された。開発にあたっては欧米人より小柄な日本人の体格にあわせ海外の小銃に比べてやや小さめ軽量で、銃床部は頬付けがしやすいよう左右非対称の設計となっている。

 被筒部前方には脱着可能な二脚があり、伏せ撃ち時や防御陣地の掩体などから安定した射撃を重視した防御戦闘を想定されているようで、専守防衛自衛隊向けのデザイン。また、専用銃剣の取り付けが可能で突撃や格闘戦にも優れる。

 発射機構は安全装置、単発、連発、3点射、が切り替え可能で、切り替え軸は匍匐の際に地面と接触し、誤って動かないように右側に配置されているが、使いにくいという指摘があり2003年のイラク派遣をきっかけに左側にも増設された。一般的な固定銃床の他に、狭い車内や航空機での移動が主な戦車部隊や空挺部隊用に折り曲げ式銃床のタイプも配備されている。

 使用する弾薬と弾倉は、西側諸国標準となったNATO規格の5.56×45㎜NATO弾とSTANGA弾倉となっており米軍や加盟国との共有も可能で、普通科部隊に配備されている5.56㎜MINIMI軽機関銃とも弾薬相互性がある。また、06式自動擲弾を装着でき火力支援が可能となっている。

 銃本体は銃身部、機関部、引金室体部、銃尾板部で構成され、一般的に加工が容易で生産性が高く低コストのスチールプレスによって作られている。64式小銃に比べ部品点数は10%少なくなっており整備が容易になっている。1丁あたりの値段は20万円代後半〜34万円くらいだが調達数により変動する。というのも武器輸出3原則により納入先が日本政府のみに制限されているためで、世界各国の主力小銃としては高額な部類に入る。

 また89式小銃には後方向けに「バディー」という愛称があるが、そう呼んでる隊員は自分が知る限りおらず、「ハチキューシキ」や単に小銃と呼ばれている。

 

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黒いテープを銃に巻く理由

  よく89式小銃に黒いテープを巻いているのは何故かという質問がある。あれは脱落防止処置であり、64式小銃採用時代に摩耗等した部品が訓練中脱落しないようにブラックテープ(通称ブラテ)で各箇所を巻いていた。今の89式小銃にやたら部品が脱落するといったようなことはあまりないと思うが、伝統を重んじる自衛隊は物品愛護の観点から小銃に脱落防止は絶対となった。部品脱落があまりないと言っても絶対にないわけではない。特に切り替え軸の止め金という小さな部品は衝撃なんかで飛ぶ可能性があるためホースを切ってそれをはめて使ったり、脚部のリングや夜間照準止め軸はたまに無くす隊員もいる。小銃以外にも銃剣の剣紐、鉄線狭カバーにもブラテを巻いて脱落防止をする(特に鉄線狭カバーは脱落防止をしないと高確率で無くす)。自分の部隊では弾倉にも麻紐を輪っかにした物を弾倉下部の穴と用心金に通してを使ったり、PX(駐屯地内にある売店のこと)で売られている脱落防止紐を買うなどして弾倉の紛失防止に勤めていた。

 

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  89式小銃は扱いやすく当たる銃

 

 89式小銃は世界的にも高水準な小銃である。3.5kgとM16と同等の重量、そして日本人の体格に合わせて設計されているためか取り回しが良い。銃剣着剣時の格闘性も高い。また銃口には大型の消炎製退器を備え、5.56×45㎜NATO弾という小口径高速弾を使用するため命中精度も高い。もちろん射手の腕にもよるが自分の場合、伏せ撃ちで静的目標を300メートルで5発射撃した際、的の真ん中ではないにしろ5発当たってくれる。戦場で敵の兵士に弾を当てるには申し分ないと思う。更に部品点数を少なくすることにより整備性が64式小銃に比べて向上している点なども米軍から評価を受けているらしい。

 この小銃の欠点をあげるとしたらやはり拡張性の少なさが真っ先に出てくるだろう。米国など他国の軍隊を見れば、あらゆる任務や状況に対応するため、小銃にあらゆるオプションを脱着してカスタム可能なピカティニー・レールが標準的に取り付けされているのがわかる。89式にも銃本体の上部に高額照準器を取り付けるための突起があるが、被筒部に関しては拡張の余地がない。精々ブラックテープでライトなんかを巻きつけるくらいだろう。レールを設けて拡張性が向上したとしても光学照準器やその他アクセサリー類の官給品を各部隊数揃えるのにも予算がかかってしまうし、水陸機動団や普通科部隊への配備が優先され末端部隊への配備は遅れてしまうかもしれない。しかし、このことは防衛省側も気にはしているため次期主力小銃にはレールが設置されているかもしれない。

 

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3点連射機構は必要か?

 

 つまり、切り替え軸を「3」に位置に回し、引き金を引いたままにすると3発連射されて止まる機能だ。

 この機能はM16A2が取り入れた機能でベトナム戦争時代、慣れないジャングル戦で未熟な兵士は敵と出会う恐怖からフルオートで乱射してすぐ弾を撃ち尽くしてしまう事例が多々あったのだとか。弾の無駄遣いを防ぐためにM16A2ではフルオート機能が廃止され、代わりに3発連射機能が採用されたが、結局はM16A3になって3発連射機能を廃止して再びセミ、フルオート機能に戻した。

 果たしてこの3発連射機能は必要なのだろうかと射撃の際度々考えることがあった。

臆病な兵士が乱射して弾を無駄に使うというのならそれは単発だろうが連射だろうが3制射だろうが同じことだ。これは、兵士の練度の問題であって銃の機能では解決できないことである。3発連射機能はかえって余計な機能を増やして銃を複雑化させているだけだと思う。

 

脚があるのはいいこと

 

 防御戦闘の際、脚を使用して安定した射撃ができるのは有利なことだ。それに大きな利点は銃を置く時地面に転がさないでいいこと。地面に無造作に武器を転がすようなことはあり得ないが、もし脚がない銃なら銃を一旦手放す時に、付近に銃をかけられるような木はないだろうか等と余計な手間が増えるが、脚があればすぐに脚を伸ばしてその場に銃を置ける。そういう面からしても脚がある89式はいい銃だと思う。

 

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